工学における創造性への取り組み

科学技術立国を目指す令和時代の日本において,とりわけ「自ら未開の科学技術分野に挑戦し,創造性を最大限に発揮し,未来を切り拓いていく(科学技術基本法,提案理由説明)」ことが求められていますが,創造性を養うためには,まず工学における創造性について定義する必要があります.本研究室では,西田哲学に基づくことで,プラトン以降の2,300年の歴史を踏まえた創造性の定義を行い,一人一人の個性をチームで育む場を醸成することを目指しています.

そのために,まず科学の勃興期から現代までの哲学が①認識論,②存在論,③場所論と進化していることを歴史のパラダイムシフトとしてとらえ,その論理的側面を明らかにします.また,研究生活や人間ゼミを通じて,工学における創造性と倫理が日常生活とどのように関わっているか,足元から考えるきっかけとしています.

人工知能(AI)と人間との違い

令和のモノづくりにおいては,人間の長所とAIの長所をともに活かすことが求められていますが,その決定的な違いは何でしょうか.西田哲学における「無の自覚的限定」の観点からは,AIは対立無,すなわち共通感覚を持ちません.ノエマ的なものしか扱うことのないAIに対して,私たち人間は関わりの中で自己や他者のかけがえのなさを認めることができます.

技術者に求められるのは,社会において貢献するものづくりですが,社会というのも繰り返すことのない1回きりのこの場限りの連続です.私たちはその社会の中にいると同時に,その社会とのやり取りをしますが,その世界を知ることは,かけがえのないものをかけがえのないものとして捉える共通感覚の在り方と同じです.したがって,工学においては,世界を知ることによる「先見性の発揮」と「倫理」とは切り離すことができません.

創造性の発揮には,世界,つまり個々と社会とのやりとりの実際を善くするActionが必要です.その行為こそが工学における創造性であり,またその創造性の発揮の仕方が個性であると定義しています.そのため,見られたものや見られたものから考えられるものは個性ではありません.AIには個性がなく,個性とは何かをも知り得ない一方,人間は本来人間(ジンカン)と呼ばれていたように,「半径無限大の球の中心(パスカル)」であるからこそ,個性豊かな営みができると言えます.

工学における創造性・個性はチームで発揮される

西田哲学に基づいて定義される工学における創造性は,一人では発揮することができません.NHKスペシャル「人体」において,私たちの身体は,「脳が全体の司令塔となり、他の臓器はそれに従う」のではなく,「体中の臓器が互いに直接メッセージをやりとりし,情報交換することで,私たちの体は成り立っている」ことが明らかとなりましたが,それは私たちの身体も,創造性を発揮するための構造になっていると言えます.

3つのパラダイムシフト

哲学 特徴
①認識論 カント,ヘーゲル,マルクスなど ノエマ的 認識,知的自覚 水平の弁証法
②存在論 ハイデガー ノエシス的 自覚,共通感覚 垂直の弁証法
③場所論 西田幾多郎 創造的 相即,行為的直観 絶対矛盾の垂直弁証法

哲学の基本構造

人間 工学 特徴
個別,個物 感覚 実測,現象,実験 繰返し不可,比較不可
一般,普遍 精神 法則,理論,解析 繰返し可能,比較可能
個別と一般との水平関係 意識 情報化,最適化 ノエマ的
弁証法的一般者 自覚 創造性・個性の発揮 内包が豊になればなるほど外延が豊かになる

参考文献

  1. 中村春夫, 工学における創造性 その1 -チンパンジーと鏡-, 日本機械学会誌2019 年3 月号, 名誉員から一言.

中村春夫東工大名誉教授の文章

工学における創造性
台車の安全確保に向けて